10話「企業の影」
有栖川の案内で訪れたのは、寂れた公園だった。
子どもはおろか、まったくもって人の気配がせず、もはや市民の憩いの場としての役割も果たせていない。
気が付けば日も暮れかけており、それが人気のない公園の寂寥感に拍車をかけている。
<大門愛海>
「ね、ねえ、カズキくん。この人って…」
<Q>
「………………」
<青山カズキ>
「まあ、そうだね。
君達の想像してる人と同一人物だ。ただ…今の彼にはその頃の記憶はない」
<有栖川さおり>
「ふーん、ずいぶん丸くなってそうとは思ったけど、そういうことだったのね」
有栖川がQへ向ける視線は、どこか不思議なものを見るようなものだった。
恨みや怒りといった悪意は感じられず、むしろどこか達観しているようにも見える。
大門の様子も困惑の色こそ見えるが、それは単純に疑問が積み重なったもので、何かを非難するようなものではない。
<青山カズキ>
「それだけかい…? 彼は、君達の…」
そこでカズキは言葉を濁した。
ここへ来るまでの間、曜達はこっそりと、つる子からある話を聞いていた。
ミナトトライブと、Qこと鳳王次郎には浅からぬ因縁があるという話だ。
かつてミナトトライブには、"神谷瞬"という最強のXBプレーヤーがいた。
その実力を聞きつけた王次郎率いるチヨダトライブはXBを挑むが、結果はミナトトライブの棄権敗北。
当時、神谷は重い病を患っており、余命僅かな身体を投薬で繋ぎ止めていたという。
そして勝負の直後、神谷は息を引き取った。
傍から見れば、王次郎との勝負が神谷の寿命を縮めたと思われても仕方がない。
ましてや、有栖川は神谷の相棒だった人物だ。Qを恨んでいても当然だった。
<有栖川さおり>
「そりゃ、思うところが無いわけじゃないわよ。
けど、神谷を殺したのはそいつじゃないわ。
あいつの限界と、あの勝負のタイミングが嚙み合っただけ…少なくとも、私はそう思ってる」
<大門愛海>
「僕もだよ。それに王――じゃなかった、Qくんはカズキくんの大事な家族なんでしょ?」
<青山カズキ>
「ふたりとも、ありがとう…」
さすが、ミナトトライブのリーダーである有栖川さおりと、サブリーダーの大門愛海だ。
ふたりは、リーダーとしての器の大きさだけでなく、人格者と呼ぶに相応しい人物でもあった。
今よりも遥かに荒んでいた頃のカズキが、ミナトトライブに居場所を見出せたのも、彼らのおかげなのだろう。
<有栖川さおり>
「さて、それじゃあまずはそっちがどうしてあの倉庫にいたのか聞こうかしら?
依頼があったとか言っていたけど」
<黒中曜>
「わかった。ただ、これまでのこと、全部話さないといけないから長くなるぞ」
曜は、これまであったことを簡潔に有栖川達に共有した。
………………
………………
………………
<大門愛海>
「え…!? そんなことがあったの…!?」
<旭川カイ>
「おもれー! 何話してんのか、さっぱりだぜ!」
<羽田清死郎>
「トラッシュの噂は聞いていたが、まさかお前らだとは…」
<有栖川さおり>
「それにしても、一番の衝撃は、園田の依頼でさっきの倉庫にいたっていう話よね…。
あんた達、本当にそんなので、XGに勝ててるの…」
<青山カズキ>
「僕らも罠だとは思ったんだけどね。曜くん達がどうしてもって聞かなくて」
<黒中曜>
「うっ…ごめん」
<小日向小石>
「お腹を空かせた子ども達に、食料をあげてたから、改心したように見えたんだよね…」
カズキ達の懸念通り、園田の依頼は罠だった。
倉庫の爆発こそ、その何よりの証拠だ。
もしあの時、清死郎が爆弾に気づかなければ、曜達は全員あの場で命を落としていただろう。
<雪谷えのき>
「そういえば、清死郎。よく気付いたね。あそこに爆弾があるって」
<羽田清死郎>
「お前が見せてきた、あのコード。
ありゃオオタトライブで使ってた爆弾に使われてたコードだ。
俺もチヨダシティで園田に仕掛けられて死にかけたからな、嫌でも覚えてるぜ…」
<雪谷えのき>
「ああ、それで見覚えあったんだ」
<羽田清死郎>
「見覚えって…アレ作ってたのお前だったろ!」
<雪谷えのき>
「そうだっけ? 覚えてなーい」
どうやらツキが見つけたあのコードが、曜達の窮地を救った様だ。
<十条ミウ>
「お手柄だったわね、ツキ」
<彩葉ツキ>
「えへへ…」
<黒中曜>
「まあ、それがこっちのこれまでの動きだ。
次は、そっちの話を聞かせてもらっていいか?」
有栖川は一瞬目を伏せると、とうとうと語り始めた。
<有栖川さおり>
「ミナトシティを出た後、私はゼロについて気になることがあって、各地を回って調べていたの。
それで、ゼロを追ううちに、別のことも見えてきたの」
<千羽つる子>
「別のこと…ですか?」
<有栖川さおり>
「あなた達、XBプレーヤーなら"トゥーキョー社"を知ってるわよね?」
<千住百一太郎>
「あん? とぅーきょ?」
<黒中曜>
「聞いたことがあるような、ないような…――うっ」
――トゥーキョー社。
その名前を聞いた瞬間、曜の頭を激しい痛みが襲った。
思わず頭を押さえる。
見ると、ツキも同じように頭を押さえていた。
<彩葉ツキ>
「な、なにこれ…」
<小日向小石>
「だ、大丈夫?」
<黒中曜>
「あ、ああ…。話を続けてくれ。少し疲れが出たみたいだ」
<彩葉ツキ>
「私も…。もう大丈夫。続けて…」
ツキのほうも、すぐに回復したようだ。
他の仲間達もふたりを心配していたが、回復した姿を見て胸を撫で下ろしていた。
<轟英二>
「トゥーキョー社か…。久々にその名前を聞くな」
<千羽つる子>
「ええ…本当に久方ぶりに聞きますね」
<黒中曜>
「ふたりとも、知っているのか?」
<轟英二>
「はあ? まさか、常識すら欠如したのか?
お前が持っているビームバットを開発したのが、トゥーキョー社だぞ」
<黒中曜>
「え…」
<轟英二>
「ふん…そんなことも知らずに持っていたとは…
まあ、お前のは後継モデルだからな。どうせ、何も知らずに見た目だけで選んだんだろう」
<黒中曜>
「いや…これは、気付いたら持っていたというか…」
<千羽つる子>
「まあ、まあ…轟さん。
かなり通な会社であるのは間違いないので、曜さんが知らなくても問題ありませんよ」
<千住百一太郎>
「俺も知んねぇな。
なんなんだ? そのトゥーキョー社っつーのは」
<千羽つる子>
「トゥーキョー社は、XBギアを開発している会社です。
今ではあまり表舞台に立っていませんが、かつては8割のシェアを持っていたと言われてます」
<小日向小石>
「8割ってすごいね…」
<轟英二>
「しかし、XBギアの開発会社とゼロにどういう関係があるんだ?
僕には、全くもって無関係にしか思えないが」
<有栖川さおり>
「…私もそう思ってた。
だけど、ゼロが頻繁に各シティに点在するトゥーキョー社の工場へ出入りしているっていう情報を手に入れたの。
それに、トゥーキョー社は、なぜかこのご時世に全工場をフル稼働させていて…しかも、ここオオタにも新しい工場を作ったという話もあるわ」
<彩葉ツキ>
「え…なんで統治ルールで、みんな大変なときに工場が動いてるの…?」
<十条ミウ>
「生活に必要なものを無理して作るのはわかるけど、作っているのはXBギアに関するものなんでしょ?
奇妙な話ね…」
<轟英二>
「ああ…。あまり言いたくないが…XB自体、下火となってしまったものだ…
プレーヤーもだいぶ減ったいま、工場を無理に動かす意味がわからない…」
<Q>
「その新工場を調べるために、オオタに来たのか?」
<有栖川さおり>
「ええ、そうよ。
オオタの新工場は、統治ルールのあとに作られたみたいだから、気になってね…。
だけど、本格的に動き始められたのは、つい最近よ…。
調査する前にオオタで偶然愛海に出くわしたの。酷い怪我だったわ」
<大門愛海>
「はは…さおりんに見つけてもらってなかったら、死んじゃってたな…。
僕、スマホも何もかもなくしてたから…」
<タイガ>
「あー、愛海ちゃんもそうだったのかー。
オレもだぜー」
<有栖川さおり>
「それで、愛海の治療をしている間に、清死郎と旭川に出会って…」
<羽田清死郎>
「姉御達は、腹減ってる俺達にメシをくれるいいやつだ…」
<旭川カイ>
「とくに、愛海の兄貴のメシは、さいこー! さいこー! さいこー!」
<有栖川さおり>
「とまあ、実にわかりやすい理由でついてきてるってワケ。
まあ、オオタシティについては詳しいし、戦力としてもアテになるからいいんだけど」
<雪谷えのき>
「えー、めっちゃ単純じゃん」
<羽田清死郎>
「男を追いかけて、ミナトシティに行ったお前には言われたくないというか…」