21話「XB~VS園田~4」
<園田不兆>
「ふー…ま、いいかあ。試したいギアは試せたし、そろそろ終わりってことで…。
ピッチャー交代な。次のピッチャーは…ま、誰でもいいか」
園田はマウンドを去り、代わりにパワードスーツを着た園田の手下が上がった。
続く打者である有栖川がバッターボックスに入る。
パワードスーツが機械音を立てながら投球フォームに入る。
巨体から繰り出される剛速球に、有栖川は反応すらできなかったのか微動だにしなかった。
<彩葉ツキ>
「は、速すぎない…?」
<千羽つる子>
「あの速さ…ここから見ていても怖いです…ましてやバッターボックスの有栖川さんは…」
ツキやつる子が心配するのも無理からぬことだった。
あのボールは今まで見たどんな剛速球よりも破壊力を感じられる。
単純なスピードもさることながら、球威がすさまじい。
いわゆる落ちないストレートの究極形のようにも思える。
<三田三太郎>
「その心配はねーよ。あいつは心臓に毛が生えてんだ」
<大門愛海>
「うん、さおりんに限って怖がるとかは無いね」
<タイガ>
「ちょっと速い球でビビるようなタマじゃねーよ」
<青山カズキ>
「そう…彼女はミナトトライブのリーダーだ、速い球に恐怖なんてするわけがない。
絶対的エースを失い、瓦解しかけていたミナトトライブ。
それを率いて最終的には最強と謳われたチヨダトライブを倒した。
もちろん、それぞれのメンバーの活躍はあるけど、そのメンバーを率いていたのは他ならぬ彼女だ」
<黒中曜>
「そもそも、なんで有栖川さんがリーダーを? 古株ってことなら大門さんとか三田さんも…」
それが曜には疑問だった。
有栖川の力を疑っているわけではない。
XBプレーヤーとして高い実力を持っていることは、曜にも理解できていた。
それは三田や大門も同様だ。
タイプは違えど、どちらもチームを率いるだけの器を持っている。
ならば、なぜ有栖川なのか。
その疑問に、大門達は拍子抜けするほど当然の顔で答えた。
<大門愛海>
「ああ、それは単純だよ。怒った時のさおりんが一番――」
<タイガ>
「おっかねーから」
<三田三太郎>
「怖いから」
<青山カズキ>
「手が付けられないから」
二球目が投じられる。先程と同じような剛速球。
だが先ほどとは異なり有栖川は一切の躊躇なくバットを振りぬいた。
打球音。矢のような速さでボールは弾き返される。
有栖川はそれを確認しながら一塁へ走り出す。
<有栖川さおり>
「あいつら…心臓に毛が生えてるだの、おっかないだの好き勝手言って…!」
試合中、トラッシュトライブ内の会話は通信ですべて共有されている。
当然、先ほどの曜達のやり取りも有栖川には筒抜けだった。
文句を言いながらも、有栖川の表情には隠しきれない笑みが浮かんでいた。
有栖川はあっさりと一塁へ到達し、そのまま二塁を狙う。
上手くいけば三塁まで行けるかもしれない。曜はそう考えた。
だが同時に、違和感も覚える。
ここまで、誰ひとり妨害してこなかったのだ。
返球がまだ戻っていないとしても、園田達なら何らかの妨害を仕掛けてくるはずなのになぜ?
だがその疑問はすぐに答えが出た。
二塁に到達する直前、バラックの陰から鎌型のビームバットが現れた。
<有栖川さおり>
「…っ!!」
間一髪で有栖川は後ろへ飛び、その攻撃を避けた。
<園田不兆>
「避けんなよ…それじゃ次の展開に持ち込めないだろー?」
<有栖川さおり>
「園田…!!」
<園田不兆>
「せっかく、ミナトのメンバーが揃って来たのに、またリーダーが死んじゃったらさあ…。
あいつらどんな顔するかなぁ? 仇取るために向こうもルール破ってくるとか?
だったらいいよなあ、XBの名を借りたルール無用の殺し合い…!
最高にカオスだよなあ!」
<有栖川さおり>
「残念ね。私は殺されないし、あんたが望むカオスも訪れないわよ!」
素手でリーチのあるビームバットに対抗する術はない。
ましてや園田と有栖川では単純なフィジカルの差も大きい。
なんとか攻撃を避け続けてはいたが、打開策がない。
やがて回避にも限界が訪れる。
足元に転がっていたバラックの瓦礫を踏んでしまった有栖川がバランスを崩す。
尻もちをついた有栖川はすぐに立ち上がろうとするが、転んだ時に足をくじいたのか、立ち上がることが出来ない。
<有栖川さおり>
「しまった…!」
それを見た園田は、下卑た笑みを浮かべながらゆっくりと近付いてくる。
<黒中曜>
「有栖川さん…!」
その様子をホログラム越しに確認した曜達も、慌てて有栖川のもとへ駆け出した。
だが、ホームからでは到底間に合わない。
有栖川の命運もここまでか――そう思われた、その時だった。
<羽田清死郎>
「くたばれ園田ァ!!」
<園田不兆>
「…おっ」
有栖川の背後から突如清死郎が現れ、園田を思い切り蹴り飛ばした。
意識外からの攻撃は、さすがの園田でも避けきることができず、後方へ吹き飛ばされる。
<有栖川さおり>
「清死郎!? あんたなんで…!?」
<羽田清死郎>
「XBなら死人は出ねえと思って園田に手ぇ貸してやっただけだ!
姉御を…仲間を殺すなら話は別だ! ほら、今のうちに進塁するぞ!」
<有栖川さおり>
「ええ…!」
清死郎は有栖川の肩へ手を回し、有栖川もそれに身体を預けながら立ち上がった。
足を引きずり、清死郎に支えられながら有栖川は二塁を目指す。
だが――次の瞬間。
清死郎は、何かを察し有栖川を突き飛ばした。
<羽田清死郎>
「あぶねえ!!」
<有栖川さおり>
「清死郎!?」
<羽田清死郎>
「――ッ!!!」
有栖川を突き飛ばした清死郎は、そのまま背中から園田のビームバットを受ける。
コートが大きく裂け、鮮血が宙へ散った。
<羽田清死郎>
「ぐっ…! クソ…大人しく…死んでろや…園田ァ…!」
激痛に耐えきれず、清死郎はその場へ倒れ込んだ。
そんな清死郎を、園田は冷めた目で見下ろしている。
<園田不兆>
「清死郎さあ、そりゃ無いわー。
金で寝返っといて、今更仲間ごっことか一番サめるんだよ。
こっちの楽しみまで邪魔しやがって…」
<羽田清死郎>
「ぐあっ!!」
園田は、まるで蟻でも踏み潰すかのように、何度も清死郎の頭を踏みつけた。
<有栖川さおり>
「やめて、園田…!!!
これ以上、清死郎を痛めつけないで…!」
涙を滲ませながら、有栖川は背後から園田へ必死にしがみつく。
<園田不兆>
「あー…マジそういうのイラつく…。
安心しろよ。全員まとめて殺してやるからさ。
あの世でも仲良く"えっくすびー"でもやってれば?」
<有栖川さおり>
「…っ」
振り返った園田の目は、完全に狂っていた。
園田がビームバットを振り下ろす。
次こそは逃げられない。有栖川は、自らの死を確信した。
<大門愛海>
「うおおおおおお!!」
<園田不兆>
「おっとぉ!」
<有栖川さおり>
「ま、まなみ…!」
状況を把握して真っ先にベンチから飛び出していた大門が、園田へ突っ込み、全力のタックルを叩き込む。
園田も寸前で反応し、防御を間に合わせた。
戦闘不能には至らなかったものの、有栖川と清死郎から園田を強引に引き剥がすことに成功した。
<園田不兆>
「おいおい…
勝手にベンチから出てくるなんて、ルール違反じゃねー?」
<大門愛海>
「何度も僕の大事な仲間を傷つけて…貴様は何がしたいんだ!!」
大門の怒りは、すでに限界を超えていた。
普段の温厚さなど微塵も感じられないほど、その表情は険しく歪んでいる。
<園田不兆>
「何がしたい? そんなん決まってんじゃん!
カオスだよ、カオス! 混乱、絶望、狂気!!
全部ごちゃごちゃになった世界をオレは見たいだけだ!!」
<大門愛海>
「ふざけるな…!! そんなことさせるか!!」
<黒中曜>
「ああ! 大門さんの言うとおりだ!」
大門に続き、曜達もようやくその場へ辿り着いた。
そのまま、有栖川達を守るように前へ出る。
<園田不兆>
「あれ? オレの手下は、どうしたんだ?」
<旭川カイ>
「オレと清死郎のつーちょー、渡したらどっかいったぜー!!!」
<轟英二>
「ふん…馬鹿な奴らだ。
通帳だけあっても、金は引き出せないってのに。まんまと騙されやがった」
<西郷ロク>
「オオタの人間は、強盗でしか銀行を使わんからな…」
<園田不兆>
「ちっ、くだらねぇことしやがって…」
<千住百一太郎>
「XBは、これで終わりだ!
どーせお前は、最初から爆弾を起動するつもりなんだろ!」
<十条ミウ>
「それなら、もう気遣う必要はないわ。
起動される前に、あなたからリモコンを奪う…」
<雪谷えのき>
「園田ー! 覚悟ー!」
一同は園田を取り囲むように、ゆっくりと距離を詰めていく。
<園田不兆>
「バーカ。オマエらごときがオレを倒せるかよ」
そう言うと、園田はビームバットの柄をひねる。
途端に、先程までとは比較にならないほど強い光が刀身から溢れ出した。
<彩葉ツキ>
「すごい出力――!」
<Q>
「もはや兵器だ…」
<園田不兆>
「死ね死ね死ねぇ!」
園田がビームバットを振るう。
それだけで周囲へ衝撃波が走り、体重の軽いメンバー達は吹き飛ばされそうになった。
最初に狙われたのはツキだった。
大きく振りかぶられたビームバットが、その頭部へ叩き込まれようとする。
<黒中曜>
「させるか!」
ツキを庇うように曜がビームバットで割って入る。
園田のビームバットを弾いたが、やはり出力の差が大きい。
園田に対して曜は防戦一方だった。
<園田不兆>
「いいねえ! カオスになってきたじゃん!!」
園田は一度曜から距離を取った。ここまではお互い決定打に欠ける戦い。
だが、園田の攻勢に対してトラッシュトライブが明確な攻めに転じる隙がほとんどない。
園田の身体能力もさることながら、やはり一番の問題は高出力のビームバット。
あれをどうにかしない限り、園田に近づくことも難しい。
<園田不兆>
「もう一段階上げるか~」
園田がもう一度柄をひねった。
ビームの輝きが増し、少し離れた先まで熱風が届く。
<三田三太郎>
「また出力を…!!」
<滝野川ジオウ>
「まずい…少しでも触れれば死ぬぞ…」
このままでは、誰かが犠牲になる。
<黒中曜>
「…やるしか、ないのか」
園田を生かせば、この場にいる仲間が犠牲になるかもしれない。
いや、爆弾のことまで考えれば、もっと多くの人間が死ぬ可能性すらある。
――これは、正当防衛だ。
そう、あとで"言い訳"ができる。
曜は込み上げそうになる笑みを必死に押し殺しながら、どうすれば不自然な園田へ致命傷を与えられるか考えていた。
しかし――
<三田三太郎>
「お、おい。園田のバットなんかおかしくねーか!?」
真っ先に異変へ気付いたのは三田だった。
園田のビームバットは、先端が赤く灼け始めている。
そして――
先ほどまで眩く放たれていた光が、突如として消滅した。
<園田不兆>
「…あれ? 壊れた?」
間の抜けたような静寂。
得物を無くした園田ならこの人数でかかれば捕縛できる。
形勢逆転かと思われた。
<青山カズキ>
「っ! 伏せろ!!」
カズキの声が響く。理由はわからない。
だが、カズキの命令に従って園田を除くその場にいた全員が伏せた。
数秒後――
<園田不兆>
「あー、ヤッベ…」
園田の声が響いた直後――爆発音が轟いた。
「ドオオオオオオオン…!」
爆風と熱波が周囲を駆け巡る。
曜達は吹き飛ばされそうになりながらも、なんとか踏みとどまった。
やがて、辺りは静まり返る。
恐る恐る目を開けると、そこには砕け散ったビームバットの破片と、ボロボロになった園田の姿があった。