11話「川沿いの子ども達」
有栖川達の壮絶な話も一旦区切りがつき、ようやく一息ついたころ、曜はふと"新工場"という単語に引っかかりを覚えた。
<黒中曜>
「あのさ……そのオオタに出来た新工場って、もしかして園田も絡んでるのか……?
アイツ…どこかの会社から仕事を受けてるって言ってただろ?」
<青山カズキ>
「奇遇だね…ちょうど、僕も同じことを考えてたよ。
有栖川さん達が、あの倉庫に居たのは、そういうことだよね?」
<羽田清死郎>
「ああ…そうだ。ようやく、アイツからは解放されたと思ってたのに…っ!!!
死ね…! 死ね死ね死ね、園田!!! 次こそは、絶対に俺が殺す…!!!」
"園田"の名前を聞いた瞬間、双剣を抜き放ち、地面へ何度も何度も突き立てる清死郎。
<小日向小石>
「ひぇ! ど、どうしちゃったの…羽田さん…!」
<千住百一太郎>
「怖すぎだろ…! チビっちまうところだったじゃねぇか…!」
<旭川カイ>
「ヒャハハハハハ! 出た、清死郎の"園田、絶対殺す"!」
<雪谷えのき>
「これ見ると、いつも通りの清死郎~って感じがするね!」
<西郷ロク>
「ああ…離れていても、全く変わっていないな…」
あまりにも物騒な羽田の様子に小石達はドン引きするが、元オオタトライブのメンバー達だけは、どこか楽しげにその光景を眺めていた。
<滝野川ジオウ>
「すごい温度差だな…」
<千羽つる子>
「その…何か、園田に酷いことをされたのですか…?」
<大門愛海>
「僕もこっちに来てから、知ったんだけど…
元々、オオタトライブの前身となるグループを作ったのは、清死郎くんみたいなんだよね~…。
最初は、普通にみんな仲良くしてたみたいなんだけど、そこに園田が来たみたいで…」
<雪谷えのき>
「園田、ちょーお金稼ぐのうまいし、面白い!
でも、清死郎は真面目過ぎて、面白くない~…」
<旭川カイ>
「だから、チェンジチェーンジ!
清死郎から園田にリーダーチェンジして、犯罪集団"オオタトライブ"が爆誕!」
<羽田清死郎>
「クソ…! 俺も、姉御達の居るミナトみたいなトライブにしたかったのに…っ!」
<タイガ>
「なかなかに、ひでぇ話だな…」
<Q>
「同情する…」
<旭川カイ>
「まあ、過ぎちまったもんは、しゃーねぇぜ!!!
そんで話をくるくる、くるりんちょー戻すとぉ…えーっと、なんの話してたんだっけ?」
<有栖川さおり>
「園田の話でしょうが…」
<旭川カイ>
「そーそー! そーだったわ!
オレ達、愛海の兄貴が元気になってから、トゥーキョー社の工場を探したんだけど、さーっぱり見つかんねぇの!」
<大門愛海>
「多分なんだけど、トゥーキョー社はオオタシティに工場を作ったのはいいけれど、現地でうまく人を雇用できなかったみたいなんだよね…
だから、全然、足取りが掴めなかった…」
<羽田清死郎>
「そんなとき、アイツが帰ってきたんだよ…。
オオタトライブ解散後、一切姿を見せなかった"園田不兆"が…
そして、それと同時にシティ全体で変な仕事に釣られて、消息不明になるやつが絶えなくなった…」
<有栖川さおり>
「私達は、オオタシティの住人をうまく扱える園田がトゥーキョー社に雇われたと思って、跡を追うことにしたんだけど…
あいつってば、全然尻尾を出さなくて、とある情報筋から園田が居る場所を教わって、襲撃したら、あんた達とかち合ったわけ。
きっと、最初からハメられてたのね…」
<羽田清死郎>
「ああ…。アイツのことだ…。
きっと、邪魔な俺達をまとめて処分する気だったんだ…」
<Q>
「園田…トゥーキョー社…。
それに、ゼロ…奇妙な線のつながり方だ」
<黒中曜>
「ああ…本当に…。
いったい、アイツらは何を企んでいるんだ…?」
曜が深く考え込むと、他のメンバー達も同じように思考を巡らせ始めた。
しかし、考えれば考えるほど、真相は霧に包まれていくばかり。
誰からともなくため息が漏れ、一同の表情に重たい影が落ちる。
そんなとき――静かにこちらを見つめ、優しく微笑む有栖川と目が合った。
<有栖川さおり>
「でも、不幸中の幸いっていうのかしら?
こうやって、あんた達と会えたんだし、ここから先は一緒に動かない?」
<大門愛海>
「うんうん。僕達、目的一緒だしねー」
<旭川カイ>
「オレ達は、姉御と兄貴が行くからついていくぜー!」
<黒中曜>
「ああ。有栖川さん達も、ゼロを追っているっていうのなら、ここからは一緒に動こう」
<彩葉ツキ>
「やったー! トラッシュのメンバー、また増えたね!」
<千羽つる子>
「しかも、あのミナトのメンバーですよ。とても心強いですわ!」
<滝野川ジオウ>
「それで、ここからはどうする…?」
<三田三太郎>
「一度オオタトライブのアジトに戻ってみるのは、どうだ? アイツをとっ捕まえて、色々と吐かせればいいだろ」
<タイガ>
「そーだ、そーだ! それが一番手っ取り早い!」
<千住百一太郎>
「全員でボコボコにしてやろうぜ!」
<青山カズキ>
「行くのは構わないけど、十中八九無駄骨だろうね。
園田はイカれたやつだけど、同時に狡猾だ。
おそらく僕達が生きて合流したという情報もすでにつかんでいるだろう」
<黒中曜>
「けど、他に何の手掛かりもないんだ。行かないよりは――ん?」
<彩葉ツキ>
「どうしたの、曜?」
曜の目に入ってきたのは、公園に入ってくる数名の子ども達だった。
一瞬、こんな公園にも子どもが遊びに来ることもあるのかと考えたが、曜は彼らに既視感を覚える。
<黒中曜>
「あの子達…どこかで…」
<彩葉ツキ>
「服が違うけど、園田から食料をもらってた子達じゃないかな?」
<黒中曜>
「ああ、そうか。でも、さっきと全然雰囲気が違う…」
さっきアジトで見かけた時とは違い、子ども達はみすぼらしい格好ではなく、整った身なりをしていた。
曜がすぐに同一人物だと気づかなかったのも無理はない。
<小日向小石>
「よかった…。あの子達、清潔な格好をすることができるようになったんだね…」
<轟英二>
「あのガキどもなら、園田やその工場について何か知っているかもしれんな」
<千羽つる子>
「確かにそうですね、ちょっと声をかけてみます!」
<黒中曜>
「あ、ちょっと待った。つる子!」
子ども達のあまりの様子の違いに、何か引っかかった曜の制止も聞かず、つる子は子ども達のもとへと駆け出してしまった。
<千羽つる子>
「あの、君達――」
だが、つる子はそこで声をかけるのを止めた。
子ども達の手に、あまりにも似つかわしくないものが握られていたからだ。
――それは、大人ですら滅多に手にしないような大金だった。
<子どもA>
「ひい、ふう、みい…へっへっへ、悪くない額じゃん」
<子どもB>
「あの園田ってオッサン。あんな小汚い場所に住んでるにしては意外と羽振りがいいな」
<子どもA>
「はあ!? お前、あのオッサンの指輪見てなかったのか!?
かなりおっきい宝石つけてたし、金持ちだぞ!」
<子どもB>
「えー、マジかよ! なら、もっと取ってもよかったなー」
<子どもC>
「それにしても、変な依頼だったね。
浮浪者の子どもに変装して食料をもらいに来いなんてさ」
<子どもA>
「にしても、傑作だったよな~!
あそこに居た連中。オレ達の迫真の演技に、ころっと騙されてたよな!」
<子どもB>
「わっかーる! 笑い堪えるのマジきつかったよな!」
つる子の反応が気になり、曜達も子ども達へ近づいていった。
だが、子ども達は話に夢中になっており、曜達が近くにいることに全く気付いていない。
そのため、その口からは次々と衝撃的な事実が語られていくのだった。
<千羽つる子>
「あのー、そこの皆さん。少しよろしいですか?」
騙されていたという事実に衝撃を受け、曜達が言葉を失う中――
つる子だけは満面の笑みを浮かべ、何事もなかったかのように子ども達へ声をかけた。
<子どもA>
「んだよ、オバサン。
金ならやんねーぞ。貧乏人はネズミでも食ってな!」
金を数えることに夢中な子ども達は、つる子に見向きもしない。
それどころか、"オバサン"と吐き捨てるように言って、ぞんざいにあしらった。
<千羽つる子>
「――オバ…?」
――その瞬間。曜には、何かがブチ切れる音が確かに聞こえた気がした。
同時に、つる子の全身から真っ黒なオーラが噴き出す。
空気が一瞬で凍り付き、周囲の温度が数度下がったようにすら感じられた。
曜は本能で悟る。これは、まずい…と。
<千羽つる子>
「君達、ちょっとそこに正座しましょうか?」
<子どもA>
「しつけーぞ、ババア! 子どもだからってあんまり舐めんなよ!」
子ども達が一斉につる子の方を向く。
しばらくにらみつけるようにまじまじとつる子を見つめていたが、そこで子どものひとりが何かに気付いた。
<子どもB>
「あれ、このババア。さっきの園田のオッサンとこにいたやつじゃね?」
<子どもC>
「あ、そういえばそうだね。
なに? もしかして騙されたから悔しいの?」
<千羽つる子>
「正座――あ、おすわりって言ったほうが伝わりますかね…?」
つる子のものとは思えないほど低い声。
口元には満面の笑みが浮かんでいる――だが、その目はまるで笑っていなかった。
それを見た子ども達の表情は、みるみる青ざめていく。
おそらく彼らも、本能で察したのだろう。
<子どもA>
「お、おい、なんかこのババアやべえぞ…」
<子どもB>
「に、逃げよう!!」
子ども達はいっせいに逃げ出した。
だが、トラッシュトライブの面々はそれを見逃さない。
<十条ミウ>
「捕まえた!」
<彩葉ツキ>
「逃がさない!」
気のせいだろうか、女性陣がいつもより機敏に動き、子ども達はあっさり捕らえられてしまった。