16話「楽しいゲームのお誘い」
<青山カズキ>
「園田…!?」
さすがのカズキもこの展開は予想外だったのだろう。
珍しく困惑と焦りが表情に出ていた。
<園田不兆>
「よぉー、元気だったか? 倉庫で全員とは言わずとも半分くらい消し飛んでるかと思ったんだけどなー。
ひい、ふう、みい…うん、みんな無事みたいで安心した」
そのセリフはまるでこちらを心配するようなものだったが、その口ぶりに嘲笑が混じっているのも明らかだった。
出会った当初の慇懃無礼とも思える丁寧語もやめており、無気力とも思える間延びした口調でこちらを挑発しているようにも思える。
恐らくはこれこそが園田の本性なのだろう。
口調だけでも、園田を知る者が彼を危険な人物だと言っていた理由が、曜にもわかった気がした。
<三田三太郎>
「何が安心だ! 俺達を殺そうとしやがったろうが!!」
<園田不兆>
「いやいや、ホントに安心してたんだぜー。
倉庫で全滅してたら面白くないからよぉー」
<雪谷えのき>
「相変わらず何考えてるかわかんないねー、園田は」
<園田不兆>
「そういうそっちは何考えてるか、わかりやすいな。
例えば――」
<羽田清死郎>
「くたばれ、園田!!」
いつの間にか園田の背後に回っていた清死郎の手にはナイフが持たれている。
その刃が園田に振り下ろされ、切っ先は確実にその背中をとらえていた。
そのように見えた。
<園田不兆>
「こういうところとかな」
園田はまるで背中に目があるかのような動きで、あっさりとその刃をかわす。
さらに返す刀で清死郎の足をはらうと、そのままこけた清死郎の顔面を勢いよく踏みつけた。
<羽田清死郎>
「ぐがっ!」
<園田不兆>
「お前は相変わらずワンパターンだな、さすがに飽きたわ…
えーっと、名前なんだっけ。成田とか、そういうのだったよな」
<羽田清死郎>
「テメェ…!」
<園田不兆>
「ま、いいわ。
オレが用あんのは、黒中曜達で、オオタのゴミにはあんま興味ねーのよ。
そこで大人しくして、なっ!」
顔を踏みつけていた足をどかすと、その足で今度は清死郎の腹を蹴りつけた。
<羽田清死郎>
「ごはっ!!」
清死郎は血を吐きながら吹き飛び、背後の壁へ激突した。
後頭部をしたたかに打ちつける。
<園田不兆>
「あー、やべ、さすがに殺しちゃったか?
おーい、生きてるか? 返事できるかー?」
<羽田清死郎>
「ぐぉぉ……ぐぉぉ……」
意識を失ったのか、清死郎はその言葉に反応しない。
そしてその呼吸音に不自然な唸りがまじっていた。
<小日向小石>
「っ! いびき…!
回復体位…横向きにして気道確保!!」
激しい衝撃と、気絶。そしてその直後のいびき。
それは清死郎の気道が、舌によって塞がれていることを意味している。
このままでは清死郎は呼吸ができず命を落とす可能性すらあった。
<小日向小石>
「やばい…! このままだと…!」
<千羽つる子>
「な、何か手伝うことはありますか…!?」
<小日向小石>
「うん…! 僕が指示を出すから手伝って…!」
<千羽つる子>
「任せてください…!
今まで、お手伝いした経験。ここで発揮いたします!」
小日向の指示に従い、つる子も清死郎の介抱を手伝い始める。
<園田不兆>
「あれま…まあ、仕方ないか…。
あんだけ思いっきり頭からいったらなあ」
<有栖川さおり>
「あんた…! よくも清死郎をやってくれたわね…!」
<大門愛海>
「ああ…! 僕達の仲間に酷いことを…!」
清死郎がぶちのめされた瞬間、真っ先に怒りを露わにしたのは、有栖川と大門だった。
ここまで行動を共にしてきた2人にとって、それは見過ごせるものではなかったのだろう。
<園田不兆>
「おー、怖い怖い。そんなに睨むなよ。
つーか、向こうから切りかかってきたんだから、セートーボーエーってやつじゃね?」
<大門愛海>
「なんだとぉ!?」
怒りに身を任せ、猛牛のように突進し始める大門。
だが突如として響いた爆音が、大門を止めた。
<大門愛海>
「な、なに…!?」
<黒中曜>
「地震か…!?」
衝撃が伝わり、転びそうになるが何とかこらえる。
音がした方を見ると、工場のすぐ外で火の手が上がっていた。
<園田不兆>
「おー、思ったより派手にいったな」
その言葉は園田がこの爆発を引き起こしたことを想起させるには十分だった。
いつの間にか園田の手には、何らかのリモコンのようなものが握られている。
<園田不兆>
「あんまりオレをおどかすなよ?
うっかり、この爆弾のボタンを押しちまうかもしれないからなー」
その言葉に全員の動きが止まる。
もし爆弾がこの工場に仕掛けられているなら、今度こそ全員が命を落とすことになる。
<千住百一太郎>
「ハ、ハッタリだ!
もしここに爆弾が仕掛けてあんなら、お前も一緒に死ぬだろ!?」
<園田不兆>
「おー、いいとこに気が付いたなチビッコ。
けど、ちょっとばかし考えが足りないな」
<千住百一太郎>
「ああ!? 誰がチビ――」
<園田不兆>
「これ、よく見てみろよー?」
園田が手元のリモコンをこちらへ向けた。
見るといくつものボタンがリモコンにはついている。
<有栖川さおり>
「まさか、あのボタン…!」
<三田三太郎>
「あれ、全部爆弾のスイッチだってのか!?」
<園田不兆>
「そーゆーこと。
つっても、どのボタンがどこに仕掛けてあるかは忘れちまってよ。
オオタ中のあちこちにある爆弾のどれが爆発するか、オレにもわかんねーんだ」
<Q>
「オオタ中、だと…」
<園田不兆>
「まあ、運がよければ砂漠のど真ん中が爆発するだけ。
悪けりゃ、どっかの建物がぶっ飛んで100人くらい死ぬんじゃねえか?」
その言葉で全員がその場に釘付けとなった。
この場で園田の言葉が真実であると証明する術はない。
ブラフである可能性も否定できない。
だが、倉庫と今の爆発は真実味を持たせるには十分だった。
<園田不兆>
「オーケーオーケー。
そんじゃ、平和的に話し合いと行こうぜー。
もちろん、そこのゴミを治療してるやつ以外は動くんじゃねぇぞ?」
<黒中曜>
「…っ!」
全員でかかれば、園田を取り押さえること自体はできるだろう。
だが、園田を制圧するより先に、あのボタンが押される。
それだけは誰の目にも明らかだった。
そうなれば、その瞬間に何人の命が失われるのかもわからない。
自分達の知らないどこかで、誰かが死ぬかもしれないのだ。
その恐怖が、一同の動きを完全に縛りつけていた。
<園田不兆>
「そんでオマエら…どこまで調べがついてんの?」
<黒中曜>
「それは…」
<青山カズキ>
「ここはトゥーキョー社の工場。
しかも、ゼロが使ってるドローンの部品を製造している。
24トライブの構成員がトゥーキョー社の社員証を持っていたことを考えても、このふたつが密接に繋がってるのは間違いない。
そして、これに園田不兆も関わっている」
曜が返答に悩んでいると、代わりにカズキが答えた。
変に誤魔化して園田の機嫌を損ねるよりも、ここは正直に答えたほうがいいと判断したようだ。
<園田不兆>
「そこまで調べてんのか。さすがトラッシュトライブ。
けど、その関係性がわかんなくて困っちゃった感じだろ」
<青山カズキ>
「残念ながらね」
<園田不兆>
「やっぱりなー。そんな手詰まりのオマエ達に、救いの手を差し伸べてやるよ」
<有栖川さおり>
「何よ…救いの手って…。
まさか、私達の質問に全部答えてくれるとでも?」
<園田不兆>
「せいかーい、答えてやってもいいぜ。オマエらのギモン全部」
<彩葉ツキ>
「ええええ!? 本当に!?」
思いもよらぬ返答に、ツキ以外のトラッシュトライブのメンバーも動揺する。
もちろん、園田がすべて答えてくれるならあらゆる疑問が解決する。
だがそんなことをして園田に何のメリットがあるのだろうか。
<園田不兆>
「もちろん、タダでってワケにはいかないけどなー」
<轟英二>
「なら、いくらで答えるというんだ」
<園田不兆>
「金は別にいらねえよ。オレが欲しいのはオマエ達との勝負だ」
<黒中曜>
「勝負?」
<園田不兆>
「勝負っつっても単純な殴り合いじゃねえよ?
そんなのもうやり飽きたしな。もっと楽しいことだ」
楽しいこと。
本来なら胸が躍るはずのその言葉も、"カオス"を何より愛する園田不兆が口にすると話は別だ。
一同は、次に何を言い出すのかと身構えた。
<大門愛海>
「僕達に何をさせる気なの…?」
<三田三太郎>
「爆弾ロシアンルーレットとか絶対嫌だからな!」
<園田不兆>
「安心しろって、オマエらも大好きなゲームだ」
<黒中曜>
「大好きなゲームって…まさか…」
<園田不兆>
「そのまさかだ。
オレとXBで勝負しようぜ。
もし、オマエらが勝ったら、オレが知ってることなんでも教えてやるよ」
<青山カズキ>
「XB…? 君がかい?」
<園田不兆>
「時間は明日の夜。
場所はそうだな…えのきか西郷がわかってるはずだから案内頼むわ」
<雪谷えのき>
「あー、あそこねー」
<西郷ロク>
「承知した…」
<園田不兆>
「あ、来なかったらテキトーにボタン押しちゃうから、気をつけろよ。
んじゃ、そーゆーことで。また明日なー」
まるで級友と教室で別れるかのような軽い挨拶を残して園田は去っていった。
もし追えば、園田の持つリモコンのボタンが押されることは想像に難くない。
トラッシュトライブのメンバーはその場にとどまるしかなかった。
<青山カズキ>
「園田不兆とXBで勝負か…まったく、相変わらず何を考えているのやら」
<黒中曜>
「でも、これはチャンスだ。
上手くいけば、ゼロやトゥーキョー社のことに関しての情報が手に入る」
<有栖川さおり>
「園田が嘘を吐かないことが大前提でしょ。
仮に勝ったとして、あいつが本当のこと言うとでも?」
<旭川カイ>
「ひゃはは! 言うワケねーよ!」
<雪谷えのき>
「そっかなー?
園田、自分が楽しいなら、なんでもするよー?」
<西郷ロク>
「ああ…アイツは、カオスを何よりも愛してるからな…」
<Q>
「園田の真意はわからないが…
オオタの住人が人質に取られている以上、受けざるを得ない」
<轟英二>
「はあ…どの道、話に乗るしかないというわけか…」