19話「XB~VS園田~2」
<有栖川さおり>
「すごい勢いだったけど、平気?」
<三田三太郎>
「ヘーキだヘーキ」
三田を心配しながらも、有栖川は守備位置に戻る。
3人目の打者はすでにバッターボックスに入っていた。
有栖川がサインを出し、三田はうなずく。
投球フォームに入った三田だったが、リリースの瞬間、顔をしかめた。
投じた球は有栖川の要求から大きく外へそれてしまった。
明らかなボール球。当然、打者もスイングなどしない。
<有栖川さおり>
「うわっ、ちょっ!」
なんとかキャッチした有栖川が、三田の様子を見ると、三田は利き腕を抑えてうずくまっていた。
<有栖川さおり>
「三田!?」
<三田三太郎>
「わ、悪い悪い…。すぐ修正する…」
よく見れば、三田の額には大量の脂汗が浮かんでいる。
明らかな異変を察した小石が、慌ててマウンドへ走った。
<小日向小石>
「…折れてはないね、けど筋を痛めてる。これ以上の投球は無理だ」
まず間違いなく、原因は先ほどのクロスプレーだろう。
あれだけの衝撃で骨が折れていないだけマシだとすらいえるだろう。
園田の狙いはこれだったのだ。
<三田三太郎>
「…無理じゃねえ!
せっかくミナトトライブの黄金バッテリーが復活したんだ!
たった4球で終わってたまるか!」
<有栖川さおり>
「バカ!
ここでこれ以上投げたら、それこそ二度と投げられなくなるかもしれないのよ。
そうしたらバッテリーも何もあったもんじゃないでしょ!」
<三田三太郎>
「ぐっ…悪い。有栖川…」
<有栖川さおり>
「ピッチャー交代よ!」
負傷により、三田はまともな投球ができなくなっていた。
そのため、代わって曜がマウンドへ上がる。
仲間から託されたマウンド。
そして、仲間達を傷つけられた怒り。
曜の感情はどうしても昂ってしまう。
<有栖川さおり>
「サインは大丈夫?」
<黒中曜>
「カズキさんに教えてもらったので合ってるなら」
<有栖川さおり>
「OK。それじゃ頼んだわよ」
1アウト一塁。
三田の体を張ったプレーによって、失点だけはなんとか防ぐことができていた。
とはいえ、この中で最も経験豊富で、有栖川との連携にも長けた三田が投げられないのは痛い。
それでも、まずはあとふたつアウトを取らなければ、こちらの攻撃には移れない。
<園田の手下B>
「………」
有栖川とのサイン通りの投球。アウトローストレート。
狙い通り三番打者は体勢を崩され、泳ぐようなバッティングになった。
<園田の手下B>
「………!」
<有栖川さおり>
「なんで…!?」
これはトゥーキョー社のXBギアの威力だろう。
体勢を崩されたとは思えないほど力強いバッティングで無理やりボールを飛ばしたようだ。
<園田不兆>
「いいぞー、いけいけー」
とはいえ、ジャストミートではない。
一塁近くで守っていた百一太郎の前にボールは転がった。
<千住百一太郎>
「来るなら来やがれ! ステゴロじゃあ負けねえぞ!!」
ステゴロ。その言葉を聞いて曜はふと気が付く。
バッティングを終えたあとに、その場に置かれるはずのバットが曜達の視界に映らない。
それはつまり――
<黒中曜>
「百一太郎! 相手は素手じゃない! バットを持っている!!」
発覚したことで隠す意味はないと考えたのだろう。
隠し持っていたバットを振りかぶって百一太郎へ襲い掛かる。
<園田の手下B>
「ふん! ふん!」
<千住百一太郎>
「うおっ! きたねーぞ!
進塁バトルは、ステゴロがルールだろうが!!」
初撃を寸でのところで躱す。
だが素手で戦う百一太郎と、バットを振り回すオオタトライブの打者ではリーチが違う。
百一太郎も素早い身のこなしでなんとか攻撃を躱しながら進路を妨害しようとするが、それも長くは続かなかった。
<千住百一太郎>
「――がはっ!?」
百一太郎の腹部を相手のバットが捉えた。
ボールをこぼし、その場にうずくまる百一太郎。
その様子を見て打者はそのままベースを踏みつける。
<千羽つる子>
「百一太郎さん!」
少し遅れて近くにいたつる子が駆け寄ってくる。
相当な衝撃だったのだろう。百一太郎はそれでも動くことが出来ない。
ようやく息が整ったのか、声を絞り出す。
<千住百一太郎>
「ボール…!」
<千羽つる子>
「っ! はい!!」
つる子は百一太郎を心配しながらも、試合を進行するためにボールを有栖川へと投げ返した。
しかし、ボールがホームに到達するころには塁に出ていた走者、そして打席に立っていたバッターもすでにホームを踏んでおり、オオタトライブに2点が追加されてしまう。
<園田不兆>
「オッケーオッケー。やっぱいいなぁXBは!」
<Q>
「さっきのは、ルール違反だ…。
XBギアでの直接的な攻撃は禁じられている…」
<園田不兆>
「はあ? XBなんだから、XBギア使って何が悪いんだよ?
オマエ、頭おかしいのか?」
先ほどとは異なり、ルール違反を指摘しても園田は認めようとしない。
仲間を傷つけられたこともあり、Qは今にも食って掛かろうとした。
だが、園田の機嫌を損ねれば爆弾を起動され、オオタシティの住人達が被害に遭ってしまう。
そのことを思い出し、Qはなんとか踏みとどまった。
数分後――
百一太郎を診ていた小石から、これ以上の出場は危険だと告げられた。
直接得物で殴られたためだろう。
百一太郎の怪我はタイガや三田よりも深刻で、戦線を離脱せざるを得なかった。
曜の中で、園田への怒りと憎しみは確実に膨れ上がっていく。
それでも――相手がXBのルールを逸脱しようと、自分達はあくまでXBで勝つ。
その想いもまた、強くなっていた。
4番打者に打順が回る。
4番に立ったのは園田不兆その人だった。
<園田不兆>
「殺す気で来いよー」
<黒中曜>
「はあっ!!」
曜は、全力の一球を投じた。
<園田不兆>
「ん?」
園田がバットを動かし始めた時には、すでにボールは有栖川のミットへと収まっていた。
<園田不兆>
「おー、やるじゃん黒中。やっぱこっちじゃ無理かあ」
そうつぶやくと、まるで興味を失ったかのように無気力なスイングを繰り返し簡単にアウトを取ることが出来た。
<黒中曜>
「…どういうつもりだ?」
<有栖川さおり>
「園田のことなんて、考えるだけ無駄よ。それより次のバッターに集中」
5番打者が打席に入る。その打者は――
<羽田清死郎>
「来いよ。遠慮なんかすんじゃねぇぞ」
ほんの僅かとはいえ、ともに戦った仲だ。曜にも複雑な思いがある。
だが共に過ごした時間が長い有栖川が何も言わない以上、曜が何か口にすることは憚られた。
有栖川は清死郎に一瞬だけ視線を向けると、すぐにサインを出した。
要求通りの投球をするつもりだった。しかし一瞬の気の迷いが、投球フォームを崩す。
<黒中曜>
「しまっ――!」
完全な失投。真ん中に半端な速度のボールが投じられる。
遠くまで飛ばされる。投じた瞬間、曜の脳内にはその光景が容易に想像できてしまった。
だが、清死郎のスイングはなぜか投じた球以上に半端なものになる。
<羽田清死郎>
「ぐっ…! クソ!!」
走り出す清死郎。だが百一太郎に代わって守備を担っていたQがすでにボールを拾って待ち構えていた。
<Q>
「悪いが、容赦はしない」
清死郎はアウトになるまいという抵抗を見せるが、Qの守備には敵わずあっさりとアウトになった。
<羽田清死郎>
「ちっ…」
3アウト。守備に就いていたメンバーがホームへと戻ってきた。
Qは守備位置へと向かう清死郎を眺めている。
<有栖川さおり>
「どうかしたの?」
<Q>
「羽田は迷っているな」
<有栖川さおり>
「やっぱりね。打席でも妙にしおらしかったし。
まあ、だからと言ってこっちが手心を加える必要はないわ。
金で裏切ったんだもの」
口ではそういいながらも、有栖川の表情は少し暗く見えた。
裏切られたことと、こちらに対する未練がある素振りを見せたことに対する複雑な思いがうかがえた。
<青山カズキ>
「まあ、向こうが勝手に迷ってくれるなら万々歳だ。
こっちとしても付け入るスキができるからね」
<大門愛海>
「カズキくん…」
<有栖川さおり>
「そういうところは相変わらずね…」
清死郎以降の打者達も決定打を出せず、スコアは2対0のまま攻守交代となる。